いざ実際に動き出すと、社員の行く末をはじめ、さまざまな心配事が出てきます。
今後、自動運転の車の車検にも対応していくことを考えると、それに対応するために社屋や工場を建て直すにしても現在の場所では市の条例の変更で、今の規模のまま建て直すことはできないと行政から言われている。それでもGLIONグループの社長は交渉を続けてくれるだろうか―――。
もちろんマイナス要素ばかりでなく、当社にはトラックの車検・整備ができる環境と高い技術力があるという強みもあります。そこは胸を張って主張できるのですが、やはり譲渡するとなると心は揺れるのです。
いちばん頭を悩ませたのは、K社とのFC契約でした。M&Aをした後も契約を続けることはできるのかどうか。もしできなければ、看板を付け替えたり、社員の制服も替えなければなりません。その回答がなかなか得られずに、結局はM&Aが成立した後に難しいという答えをもらいました。ただ、救いはK社からそれらの変更について、ある程度の猶予期間をもらえたことでした。
さまざま交渉しなければならないことはありましたが、具体的に話を進めていくなかで、私が提示していた条件も承諾していただくことができました。しかも社員について3年間はこのままの待遇を保証するという約束ももらえました。さらに嬉しいことに、社名もそのままにという提案もいただきました。なにか祖父・幸太郎の創業の志を次につなぐことができた気がして、バトンを受け継いだ自分の肩の荷を降ろせたようで安心しました。
私自身についても、当面3年間は会長として仕事を続け、その後は1年ずつ契約の更新をしていきましょうという申し出もいただきました。本当にM&Aという選択肢を選んで良かったと、喜んでいます。
M&Aが決まるまでは娘たちや婿たちに悩みを相談したこともありました。みんな、私の話を親身になって聞いてくれていたのです。
それだけでも支えになっていたのですが、契約が成立した日、娘や婿たちが一人ひとりメッセージを書いた「寄せ書き」をくれました。考えてもいなかったサプライズで、家族のありがたさを改めて実感しました。